2015年05月30日
遠い声
朝から何度も、携帯の番号でかかっては話さない、息遣いだけの電話が。
いたずら?
でも伝わってくる空気は、不穏なものでもなく。
何度目かでようやく、ご年配のかすかな声が響く。
え・・・と。○○さん、ですか。
聞き覚えのない御高齢な男性声。すこしろれつも回らない。
「そうです。○○です。」できるだけゆっくりはっきりお答えすると。
わたし、△△□□です。覚えておいでですか。
ああ。当時とは全くお声の質が変わっているけれど。
かつて、直属の上司であった方。この方の秘書を務めた。
遠く、広島の地に定年後のお住まいを決め、以来お会いしたことはなかったが
奥さまには達筆なご年賀状を毎年いただいていた。
主人は筆不精なのでごめんなさいね、わたしが代筆しておりますと、気安さからの書き添えも。
ご定年時には選びに選んだ夫婦湯のみをお贈りし、
いつも嬉しく使っていますよ、と書き添えてくださっていた。
夫が亡くなった折も、お悲しみはいかばかりかと、と抱きしめたくなるようなあたたかいお手紙をくださった。
その奥さまが急逝して2年。
30年ぶりにお聞きする元上司のお声。
「施設に、入って、おります。家内に、すべて、頼んでいたので、なにも、できませんので。」と。ゆっくりとおはなしなさる。
声がかすれているので、受話器にしっかり耳を抑えつけてお声を拾う。
「おなつかしゅうございます。お声が聞けてほんとに、うれしい。」
ひとしきりお話を聞いてからそう申し上げると、「ああ、ははは、時間が、経ちました。うん。」と。
それでは、ね。元気で、ね。幸せに、おなりなさいね。さようなら。
と、いい置くと、ぷっと電話は切れた。
「さようなら」
受話器を置けず、持ったまま涙がこぼれた。
「では、また。」とおっしゃらず、「さようなら」と口になさった心情を思う。
・・・ありがとうございます。
思い出して、くださって。
生きて、いきます。

いたずら?
でも伝わってくる空気は、不穏なものでもなく。
何度目かでようやく、ご年配のかすかな声が響く。
え・・・と。○○さん、ですか。
聞き覚えのない御高齢な男性声。すこしろれつも回らない。
「そうです。○○です。」できるだけゆっくりはっきりお答えすると。
わたし、△△□□です。覚えておいでですか。
ああ。当時とは全くお声の質が変わっているけれど。
かつて、直属の上司であった方。この方の秘書を務めた。
遠く、広島の地に定年後のお住まいを決め、以来お会いしたことはなかったが
奥さまには達筆なご年賀状を毎年いただいていた。
主人は筆不精なのでごめんなさいね、わたしが代筆しておりますと、気安さからの書き添えも。
ご定年時には選びに選んだ夫婦湯のみをお贈りし、
いつも嬉しく使っていますよ、と書き添えてくださっていた。
夫が亡くなった折も、お悲しみはいかばかりかと、と抱きしめたくなるようなあたたかいお手紙をくださった。
その奥さまが急逝して2年。
30年ぶりにお聞きする元上司のお声。
「施設に、入って、おります。家内に、すべて、頼んでいたので、なにも、できませんので。」と。ゆっくりとおはなしなさる。
声がかすれているので、受話器にしっかり耳を抑えつけてお声を拾う。
「おなつかしゅうございます。お声が聞けてほんとに、うれしい。」
ひとしきりお話を聞いてからそう申し上げると、「ああ、ははは、時間が、経ちました。うん。」と。
それでは、ね。元気で、ね。幸せに、おなりなさいね。さようなら。
と、いい置くと、ぷっと電話は切れた。
「さようなら」
受話器を置けず、持ったまま涙がこぼれた。
「では、また。」とおっしゃらず、「さようなら」と口になさった心情を思う。
・・・ありがとうございます。
思い出して、くださって。
生きて、いきます。
