50歳の5歳の記憶
幼いころの記憶で鮮明なものは、よほど鮮烈な出来事、印象が強かった事柄なのだろう。
50歳になる今の脳にくっきり残っている5歳の記憶。
幼稚園でお絵かきの時間。
青い空にぽっかり浮かぶ雲。
地面には、チューリップ。
雲と花に目線を合わせるように、笑顔を描いたわたしに
担任の先生は
「雲や花が笑いますか?笑わないでしょう?消しなさい。」と指導した。
言われるまま、雲の顔を白いクレヨンで
チューリップの顔を赤で塗りつぶした。
でも、いくら強くこすって上塗りしても、笑顔はうっすら目に残り。
夢中で描いていたその絵は、すっかり私のものでなくなり、続きを描かなかった。
その後学期末に持ち帰りに渡された絵の束の中から抜き、家で破いて捨てた。
几帳面な先生だった。
やさしかった。
好きだった。
だからそれ以来、雲にも花にも、顔を描かなかった。
芽生えた感性の一つを
好きな人の言葉で捨てた。
親でなくてよかった、と自分が親になって思った。
好きな人だったことには変わりはないけれど。
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