父のガンは、脳への転移が多発で見られ、
意識の混濁や嚥下困難はそのためだとの診断。
加えて肺炎を併発しているため、抗生物質と脳のむくみをとる点滴を
生食に加えてしのいでいる。
終末へのカウントダウンが始まった。
だが、薬の力はすごい。
むくみのとれてきた脳は、残った機能をフル回転させており、
父の習慣を維持させている。
寝ている間に心電図や機器を外してしまうので両手を拘束されているのだが
私が行くとまず、その拘束のひもを外して欲しいとジェスチャーし、
はずすと、「時計を」とささやく。
愛用の懐中時計を渡すと、
「眼鏡を」と。
眼鏡をあてがうと、目を凝らしながら器用に懐中時計のネジを巻き、
今度は時間を聞く。
携帯を見て時刻を伝えると、誤差をあわせる。
それから、「鏡」というので、顔に向ける。
鏡を覗いて酸素の位置を確認して直し、手を差し出すのでティッシュを渡すと酸素周辺と口周りの湿気を拭きとる。
それから、「携帯を」という。
渡すと、メールと着信をチェックして自分で電源を落とす。
のぞいていると、うまく押せていないので、携帯の中身のチェックは本当はできていないかもしれないが、
習慣のままに、ぴぴっと押している。その動作をしていることに満足するのかもしれない。
カメラは?というので家で充電しているからまた持ってくるね、と話す。
ブログをいつも更新していた父は入院中も居宅生活時もいつもカデジカメをそばに置いていた。
入院時のいつもの所作をそのままに、父は、父でいる。
そして一連の動きを終えると、拘束のひもを、しばり戻せ、という。
見つかるとうるさいから、こんなことも、こっそりだ。と息をつきながらゆっくりと話す。
お父さん、あなたは、最期まで、「あなた」のままで逝くのだねぇ。。。
夫は明日から新たな骨転移部への放射線の予定だが、今日は38度の熱がなかなか下がらない。
延期になるのかな。。痛みを軽減できる放射線照射。できれば早く受けさせてあげたいのだが。。
合間に、父の施設に行き、書類を届ける。
訪問看護を急遽増やしてもらった入院前の数日分の契約書類。
ついでに、病室から持ってきた二人分のよごれものを居宅で洗濯をして、室内でクーラーを回し、
その室外機の排風のあたるところに洗濯ものを干し、
日当たりと風送りで1時間のスピード乾燥をさせてまた病院へ。急ぐ時の工夫。
朝、乾いた洗濯物をもちこんだばかりではあるが、父は今回の入院では毎日着替えさせてもらっているし、
夫も寝汗でよく着替えるので
晴れている日の洗濯は時間をおしんでする。
帰宅が遅くなったので上息子にメール。
ちょうど仕事を切り上げて帰ることろだというので国道沿いで待ち合わせて一緒に外食をして帰宅。
今日も無事に、お疲れ様とウーロン茶で乾杯して食事をする。
独りだと食べる気も起きない食事もこうして二人で食べると食べられる不思議。
帰宅途中に下息子から電話。今、夫の所病室から下宿へ帰るところだという。
ちょうど、私の帰りとすれちがいだったようだ。
別に用はないんだけど、と。
父親の様子を看て、独り病院を後にした夜の駐輪場で、電話をしてくれた心情を想う。
自分の近況を話してくれる。
バイト帰りに父親を見舞ってくれた礼と
「あなたの顔が見たいから、時間があったらまた帰っておいで」と話す。
下息子、「ん・・。」と答えて電話を切った。
元気なかあちゃんで、明日もいようと思う。