範囲内
小さい波が来る。
どこかで、スイッチが入る瞬間があるのだが、そのきっかけは様々で予見が難しい。
たまたま聞こえた昔の音楽だったり、テレビのセリフだったり、風景だったり、匂いだったり。
予兆は、過食。お腹が張るまで食べても手が止まらず、手当たり次第に口に食べ物を詰め込みはじめる。
ああ、また、そろそろくるんだなぁと覚悟する。
それから、早くて半日、遅くて数日すると、大波が来る。
じっとしていられなく、さりとて何も手につかず、
家の中を小走りにうろつき、封印タンスを開いて遺服を漁り、ぬくもりを探し、残り香がすでにないことにいら立ち。
空に向かって声をかけ、名を呼び、壁を叩き、七転八倒
嗚咽で過呼吸になり、げーげーする。
感情の嵐が過ぎ去ると、しばし放心し、
数時間後には、何もなかったのごとく、また家事や仕事に戻る。
間隔は間遠くはなってきている。
泣かない日はないが、大波は日常ではなくなっている。
波の範囲は想定内。
そう思う事で安心する。
薬なんか要らない。
私の心は、通常「範囲内」で治まっている。
大丈夫。
あしたも、生きる。元気。
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