今年の教室は、毎回、腹に力を入れていく。
お元気な男子が多いせいもあって、春先の最初はまあ元気だなぁくらいでよかったが、
初夏あたりからは慣れてきたのか、全開モードに切り替えないと負けそうになってきた。
白鳥麗子でございまーす!おーっほっほっほの勢いをイメージして
くじけない私でいく。
教室に向かうと入り口でなわとびをしている男の子たち。
「ぅわ、でたっ!」とへの字顔で笑い合い
さっそく縄をはって通せんぼ。
入れさせない気?
すかさず、「ノンタン選手、ようやく、いまゴ―――ルっ!」とテープカットのマネをして
縄に飛び込んでいく。
「ウザっ!なんでそんなにうぜーの、おばさん(笑)」
「おほほ。わたしからウザをとったら、何が残りますの?」
と素知らぬ顔をして教室に。
始めてからも、
真顔で「お・ば・さ・んのくせに」という子には
「あら。まだまだお・ば・あ・さ・んじゃないってこと?嬉しいわぁ」
「婆あー!!」
「あらどこに?」キョロキョロ
「殴られたい?」と言われれば
「おほ。倍返しは痛いわよぉ?よろしくて?」
「つまんねーし」
「あら、たまにはつまりましょうよ、ぎゅぎゅっとね」
「なんで来んの」
「あなたに会うためにきまってるでしょうよぉ」
「っうぜーーーーっっ」
「いやぁ、そんなに照れないで♪」
「うわっ。まじウザっ!」
「知ってて言わないのいつものことでしょうよ」
「死んでいいよ」
「やーよ、生きたくて生きてんだから。」
「マジ死んで」
「マジ生きたいから、やーだよ」
あっちこっちから突っ込んでくるたび即答で切り返しながら授業をしていると、
「おーい、無理無理、この人に口で勝とうと思うな」と
少し大人っぽいいつもフォロー役の男子が突っ込みを入れてくれたりもする。
そんなこんなで時間を過ごす。
やらねーし。ねみぃー。無理無理。あーはいはい。
貧乏ゆすりに突っ伏し寝、とまらないおしゃべりに、マンガ読み。
見ようによっては、「崩壊状態」の教室だけれど、
ちゃんと「成り立って」いるのだ。
聞くとこは、聞いてるし、やることはやる。
朗読の時間は単位には関係のないカリキュラム、ほんとにいやなら、でなけりゃいい時間なわけで。
でも、いつも揃っていてくれる。
最初は、下を向いたきり、口もほとんど聞かないし視線も合わなかった子が
目を合わせてくるようになり、ぼそっと雑言をはくようになり、それがはっきりした声で「挑発」もしてくるようになり
そのうち、うぜー、馬鹿らしいといいながらお題を気合入れて遊んだり
(そう、この時間は、声で「遊ぶ」時間) してくれるようになった。
もう、どんな雑言が出ようが、騒がしかろうが
この子たちといる時間が嬉しいわけで。
元気すぎる男子の向こうでそっと座っている女のコ、目が合うと困ったような照れたような顔でその都度にこっとする。
(うっっかわいい)
やっぱり最初はひと声がでるのに、長いタメが必要だったのが、さらっとお題を読めるようになってきてるし。
去年は、男女構成が全く逆で、女子だらけの年だった。
箸が転げてもおかしい年頃、まとまりもよくてチームのようだった。
少数の男子君は、そっと静かに微笑んでいたっけ。
とまらないおしゃべりは、今までの寡黙の反動かもしれないし
悪口雑言挑発は、相手を選ぶはず。
おとな試しでもある。
なにより、教室の専任の先生方が、この状態を黙って見ていてくれる。
「ほらそこ!聞く姿勢は!」みたいな、威圧が一切ないのだ。
この時間そのものを「預けて」くださっているのが、なによりもありがたい。
終わりがけ。
「さて、帰りますねえ」と声をかけると
「おーかえれかえれ〜」とあっかんべー的口調に
「かえるかえる〜」と手を振る。
で、今回はちょっと「きゅん」の瞬間もあった。
めずらしく挑発でない発言があったのだ。
「どうしていつも、そんなに笑顔なの?」
おちゃらけないで答えた。
「逢えるのが嬉しいから」
一瞬、顔がわずかにほころんだ。
でもすぐ、周りのちゃかしに「うぜえし」が戻ったけど。
玄関で、靴を履いていると、あの女の子がやっぱり照れたような困ったような笑顔で
ちょこちょこっときて見送ってくれた。あー。ぴんくのほっぺかわいい。
で、外に出ると、そこで専任の先生が声をかけてくれる。
「ありがとございました。また、よろしゅうに」と目配せ顔をして。
ウザ上等。
婆上等。
幸せな時間。