黄昏流星群
無様な姿は見られたくないと、見舞いは断って、と言い続ける父であるが、
逢いたい人は、別物らしい。
10年来、行きつけにしてきた小料理屋の女将さんがいて。
おだやかな面持ちの、品の良いご婦人だ。
彼女とは店を離れてのメル友。
店に行けなくなって久しいが、交流は続いている。
ガンであることを医師から伝えられた翌日、父は彼女にメールを入れたとのこと。
「おれ、肺がんだってさ。」
むろん、彼女は即返信。
「行っていい?迷惑?」
「見ぐさい姿(見苦しい)だけど、それでもよければ」と。
昨日、病室に行ったら、さっそく彼女が来てくれていて。
そんないきさつを話してくれた。
新規の看護師さんが病室に来ると
「これ娘」「こっちはママ」と指をさして紹介する父。
看護師さん「ママ?おくさま?」
「いや。カタカナの『ママ』」
「?・・! あら♪○○さん、お幸せね(笑)」と、そんな会話で笑いが出る。
抗がん剤投与前の検査のあれこれで少し疲れ気味だといいながら、体を起こし談笑が続く。
父の入院のたび、ちょくちょく顔を出してくれていた彼女は、自身も幾度か入院をしている。
その都度、父も見まいに駆けつけていた。
大晦日の夜に、店を閉めたそのあとにわざわざ一人分のおせちをあつらえ、父に届けてくれた年もあった。
今年はそろそろ店を閉めるという。
「俺の行くとこ、なくなっちゃうな」と父。
「一緒に他へ飲みにいけばよいことよ」と彼女。
「それもそうだ」と笑う父。
娘はなんとなーく売店行ったり、用事を作ってちょこちょこ席をはずしつつ。
数時間後に彼女を見送った。
娘では触れない、父の心のやわらかい部分を、きっと彼女が担ってくれているのだろう。
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