黄昏流星群

のんたん

2011年02月24日 11:22

無様な姿は見られたくないと、見舞いは断って、と言い続ける父であるが、

逢いたい人は、別物らしい。

10年来、行きつけにしてきた小料理屋の女将さんがいて。

おだやかな面持ちの、品の良いご婦人だ。

彼女とは店を離れてのメル友。

店に行けなくなって久しいが、交流は続いている。

ガンであることを医師から伝えられた翌日、父は彼女にメールを入れたとのこと。

「おれ、肺がんだってさ。」

むろん、彼女は即返信。

「行っていい?迷惑?」

「見ぐさい姿(見苦しい)だけど、それでもよければ」と。

昨日、病室に行ったら、さっそく彼女が来てくれていて。

そんないきさつを話してくれた。

新規の看護師さんが病室に来ると

「これ娘」「こっちはママ」と指をさして紹介する父。

看護師さん「ママ?おくさま?」

「いや。カタカナの『ママ』」

「?・・! あら♪○○さん、お幸せね(笑)」と、そんな会話で笑いが出る。

抗がん剤投与前の検査のあれこれで少し疲れ気味だといいながら、体を起こし談笑が続く。


父の入院のたび、ちょくちょく顔を出してくれていた彼女は、自身も幾度か入院をしている。

その都度、父も見まいに駆けつけていた。

大晦日の夜に、店を閉めたそのあとにわざわざ一人分のおせちをあつらえ、父に届けてくれた年もあった。

今年はそろそろ店を閉めるという。

「俺の行くとこ、なくなっちゃうな」と父。

「一緒に他へ飲みにいけばよいことよ」と彼女。

「それもそうだ」と笑う父。

娘はなんとなーく売店行ったり、用事を作ってちょこちょこ席をはずしつつ。

数時間後に彼女を見送った。


娘では触れない、父の心のやわらかい部分を、きっと彼女が担ってくれているのだろう。






関連記事