2013年08月15日

意訳 税所敦子刀自(1)

このところ、古書づいている。まだほかにも書きたい題材があるが、

今度の仕事でかかわる税所敦子氏の伝記から読んでいる。

まずはこちら。

『税所敦子とは』へリンク

ネット上では非の打ち所なき賢女としてのエピソードには事欠かないが、もっと人間臭い敦子女史に出逢いたかった。

何せ彼女の生涯を網羅したものがなかなかなく、古い本ひとつ見つけたが図書館にもアマゾンにもなく。古書点から取り寄せた。

意訳 税所敦子刀自(1)

おお、東京女子師範学校の廃印がある。

歴史感じるなぁ。


で。敦子女史。いい。人間臭さを見つけた。

この本を参考に、他で調べた資料も加味し、現代風税所敦子ものがたり、をこころみることとする。


(文章の著作権者はブログ主 ですので僭越ながら流用不可、とさせていただきます。)

(なお、僭越ながら、このものがたりの「語り」のご用命あれば、どこへなりとはせ参じます。(朗読士(R)いけうちのりえ



**************

(敬称略で書いています、ご容赦。)

『意訳 税所敦子刀自 その1 』


あつこは、京都、錦織で生まれた。

生家は宮家付きの武士の家。

うまれつき、利発で、心根が特別優しい娘であったが、体が弱くその分両親の慈しみはことさらだった。

また、あつこは、虚弱なぶん、思考が大人びており、知的好奇心が旺盛でほかの子供たちとは一風変わっていた。

6歳の時、父が友達と歌会を催した、そばに居た娘、あつこ、見よう見まねで歌を作ってみせた。

その出来栄えのよさにおとな一堂びっくり。お父さん内心大いに鼻が高かったが、そこは女の子。

当時女子がおりこうぶるのは、疎まれたので、あからさまには褒めてはあげられなかった。

11歳の時、いきなりの行方不明、親が青くなって探しまわるが、見つからない。

3日2晩のちに見つかったのは、虚空蔵様のお堂の中。眼をつむり正座したまま飲まず食わずで顔は青ざめ。

やれやれなにはともあれ生きててよかったと連れ帰ろうとした両親に「お願いですからこのままに。」と懇願。

「いったいどうしたんだ」 すわ乱心かと心配した親が恐る恐るたずねると、

「このお堂で17日間断食祈願すると、智慧と学問を授けてくださると聴いたの。お願い、17日ここで祈願させてください。」との答え。

この時代、女子に学問は必要なしの風潮、いかにあつこが聡明であっても男子のように学問の道は与えられず、あつこはそのことが歯がゆくてならなかったのだ。

さてそのいきさつが評判となり、当時、歌聖と謳われていた千種有功卿の耳に入り。

「わたしが歌や学問を教えてあげようではないか。」とお声掛け。

あつこ、舞い上がって喜び、両親も喜んで卿のもとへ、あつこを通わせることとした。

学びを得たあつこは、乾土に水がしみるがごとく、どんどん知識を吸収、卿と交友のある他の師の元にも通いめきめきと実力をつけ

門下生の中でも秀才と誉を受けるまでに。

数年後、18の歳にいつくしんでくれた父が亡くなる。

悲嘆にくれたあつこであったが、その2年後20歳のおり、税所篤之氏のもとに嫁ぐこととなる。

篤之は、前妻とは死別のバツイチ子持ち。

娘二人の父であったが、その子らを、九州の実家母に預け、京に単身赴任していた。

仕事もできるがなかなかの洒落男。

書も、画も、歌もたしなみ、あつこの師である千種卿のところにも出入りしていたので、あつことは面識はあった。

ときにきまぐれにあつこに手ほどきもしたことだろう。

大好きな父を亡くしたあつこの眼には、かなり年上で才能ある篤之が理想の人に見えた。

「ああいう人のお嫁さんになりたいなぁ」とつぶやいたことがきっかけで

婚儀話はトントンと進み、晴れて夫婦に。

ところが、他人として接するのと、夫婦となった男女とでは対する態度は大違い。

元来が男尊女卑気質の激しい薩摩の男。

門下でも秀才と誉を受けていたあつこに対して、まぁ、厳しい、厳しい。

「世間知らずめ」「こんなこともできんのか」「おそいおそい」と叱咤が続き。

時に手を上げることもあった。


しかも、女買いも独身時代と変わらず続けやがる。

心配した親友、そっとあつこを訪ねることにする。きっとストレスたまっているはず、愚痴の一つも聴いてあげなきゃ。

で、あつこに尋ねる。

「わたしたちのあこがれである才女のあなたがなんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないの、ひどいわご主人。つらいでしょう。」

あつこは、答える。

「私の大事な旦那さまを悪く言わないで。そりゃ、私は少しばかり学問をかじったけど、まだまだ未熟だし、大事に育ててもらった分世間知らずでどうしようもないのよ。旦那様はわたしが愛おしい気持ちが強くてつい声を荒げるの、手もでるの、わたしが可愛い反動なのよ。

それに、うぶなままなわたしでは大人の旦那様は物足りないのも仕方がないのよ。だから玄人の女の人に行く。
色恋ではない相手よ、
それは旦那様の誠意だわ。殿方なんだから仕方がないじゃない。
それを焼きもちなんか焼いたら、罰が当たるわ。辛抱して、お気に召すよう努め続ければきっと旦那様は私をあわれに思って改心してくださるに違いないのだから、ほっといて。」


でました!あつこの性善説思考と超ポジティブシンキング。

てっきり、よよと泣き崩れて嘆くであろうあつこを、しかと抱きしめ慰めようと心してきた親友、あんぐり拍子抜け。

「あなたって人はまぁ。。。」と苦笑するやら、感嘆するやら。

その言葉どおり、あつこの一念は、篤之の心を懐柔し、3年後には、模範亭主に様変わり。

あつこを愛でて、彼女一筋となり、数年後ようやく娘も授かった。


以下、つづく。

税所敦子刀自(2)へリンク



タグ :税所敦子

同じカテゴリー(古書)の記事画像
桔梗ヶ原ものがたり 4
桔梗ヶ原ものがたり3
桔梗ヶ原ものがたり2
桔梗ヶ原ものがたり 1
意訳 税所敦子刀自(9)完結
意訳 税所敦子刀自(8)
同じカテゴリー(古書)の記事
 奈川地区へ (2019-05-17 12:06)
 床尾でおはなし会お打ち合わせ (2017-07-03 17:34)
 真実の唇 (箴言12章より) (2015-09-16 12:18)
 桔梗ヶ原ものがたり 4 (2015-09-12 17:56)
 桔梗ヶ原ものがたり3 (2015-09-08 22:32)
 桔梗ヶ原ものがたり2 (2015-08-30 10:26)

Posted by のんたん  at 18:37 │古書