2011年02月24日

黄昏流星群

無様な姿は見られたくないと、見舞いは断って、と言い続ける父であるが、

逢いたい人は、別物らしい。

10年来、行きつけにしてきた小料理屋の女将さんがいて。

おだやかな面持ちの、品の良いご婦人だ。

彼女とは店を離れてのメル友。

店に行けなくなって久しいが、交流は続いている。

ガンであることを医師から伝えられた翌日、父は彼女にメールを入れたとのこと。

「おれ、肺がんだってさ。」

むろん、彼女は即返信。

「行っていい?迷惑?」

「見ぐさい姿(見苦しい)だけど、それでもよければ」と。

昨日、病室に行ったら、さっそく彼女が来てくれていて。

そんないきさつを話してくれた。

新規の看護師さんが病室に来ると

「これ娘」「こっちはママ」と指をさして紹介する父。

看護師さん「ママ?おくさま?」

「いや。カタカナの『ママ』」

「?・・! あら♪○○さん、お幸せね(笑)」と、そんな会話で笑いが出る。

抗がん剤投与前の検査のあれこれで少し疲れ気味だといいながら、体を起こし談笑が続く。


父の入院のたび、ちょくちょく顔を出してくれていた彼女は、自身も幾度か入院をしている。

その都度、父も見まいに駆けつけていた。

大晦日の夜に、店を閉めたそのあとにわざわざ一人分のおせちをあつらえ、父に届けてくれた年もあった。

今年はそろそろ店を閉めるという。

「俺の行くとこ、なくなっちゃうな」と父。

「一緒に他へ飲みにいけばよいことよ」と彼女。

「それもそうだ」と笑う父。

娘はなんとなーく売店行ったり、用事を作ってちょこちょこ席をはずしつつ。

数時間後に彼女を見送った。


娘では触れない、父の心のやわらかい部分を、きっと彼女が担ってくれているのだろう。







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Posted by のんたん  at 11:22 │介護

この記事へのコメント
お父さんに「ママ」がいるナンテ、素晴らしい事、ですね。
大学院でお世話になった先生にも「ママ」がいました。
素敵な方でした。
ある意味、羨ましいです。
Posted by 84848484 at 2011年02月27日 22:20
8484さん

ありがとうございます。
母を看取って数年後、ふらりと立ち寄った彼女に店が気に入って、以来週一回の常連となったいたようです。
さっぱりとした気性で会話の妙を楽しませてくださる女将さんのファンも多くおじさま族のご常連さんが多い店でした。
店を閉めれば惜しむ方も多いことでしょう。
大学院の先生にもママさんがいらしたのですか。
8484さんが学生さんのころなら、先生に大人の世界を感じられたことでしょねぇ。。
Posted by のんたん at 2011年02月28日 00:15