2015年06月11日

風景の色づき

ー小さな旅の日のー

『ねえ君』

若い男性の声が背中で聞こえた。

このまま振り向けば

「あ、しまった。年配だった」とバツの悪そうな顔を見るだろうと

ならばとぼけて、なんでござんしょとしわがれ声を出そうかと、少し意地悪な気持ちで振り向くと

そんな思わくを大幅にはずした、若者というよりあどけなさがしっかり残る少年の顔があった。

顔は確かにこちらを向いているものの、視線はわずかに外し、変声期が早かっただろう安定した大人声で

「君はずっとここにいますね。人を待っていますか?僕は待っています。来ませんか?何時ですか?」

とよどみなく少し早い口調で話しかけてくる。

ああ・・。そうか。。。

「人を待っていません。ただ、街がきれいなので眺めていただけです。心配をしてくれましたか?ありがとう。」

そう答えると

「あのビルの高さは○○○メートルです。」から始まって、わたしにはよくわからない蘊蓄をたくさん、話してくれた。

あいづちを打ちながらしばし。ひとしきりはなすと、首をかしげたりあたりを見回す様子を繰り返しながら。

「ではさようなら」と離れて行った。 後姿を見送りつぶやく。

私の背中は、話しかけやすかったですか?

おはなしを、ありがとう。

*********

今日、知らない人と 話しました。 会話、ではなく、言葉を聴いたのです。あの風景は、彼の言葉で、たしかに色づきを持ったのです。

私が誰かなどとは関係なく。
  


Posted by のんたん  at 00:00日記